国民国家(nation-state)

アメリカ合衆国成立以前の世界には、政治形態としては君主制、ベネチアやフィレンツェのような自治都市しかなかった。今の人たちが考えるような国家というものは、まだなかった。
君主制の時代には、国民というものはまだなかったし、国境というものもまだなかった。自治都市に至っては、少数の貴族の合議制であって、国民全部の意思の表現ではなかった。
そういう状態のところで革命が起こると、市民が王から乗っ取った財産、つまり「国家」は、誰のものか、ということが問題になる。市民の範囲は漠然としているから、もっとはっきりした誰かを、王の財産権の正当な相続人として、設定しなければならないことになる。そこで「国民」という観念が生まれて、「国民」が「国家」の所有者、つまり主権者だ、ということになった。「国民国家」という政治形態は、このとき初めて生まれた。
19世紀末までは、「国家」と呼べるようなものは、世界中どこにもなかった。あったのは君主の位であり、君主の権利であり、君主の財産だった。「国家」が「国民」を所有するという、「国民国家」の政治形態が、19世紀に全世界に広まった後の今の時代になってから回顧すると、君主の財産が国家だったように見えるだけのことである。

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